ギフテッドという言葉を聞くと、「特別な知的能力や才能を持つ子ども」を思い浮かべるかもしれませんが、ギフテッドの特性は大人になっても続きます。また、ギフテッドの大人は、独自の視点や感受性、思考の深さを持ちながらも、社会との適応に悩むことが少なくありません。
本記事では、いくつかの海外の文献をもとにギフテッドの大人の特徴とともに、生きやすくするためのヒントについてご紹介します。
※以下に挙げる特徴は、ギフテッドな大人に見られることが多いとされていますが、必ずしもすべてのギフテッドの大人に当てはまるわけではありません。
ギフテッドの大人の特徴
知的な特徴
- 学習速度が速い:新しい知識を短期間で吸収し、深い理解を得ることができる。
- 探究心が強い:興味を持った分野について徹底的に学びたくなる。
- 多面的な思考:一つの問題を多角的に捉え、独創的な解決策を考え出す。
- 創造性が高い:アイデアや発想が豊かで、既存の枠組みにとらわれない。
- 完璧主義:高い理想を持ち、細部にこだわる傾向がある。
知的面の特徴は、大人のギフテッドにおいても見られます。才能に突き動かされることが多く、探究、作曲、執筆や絵を描いたり、研究などを好む場合も。
多面的な思考に関しては、例えば、送迎するバスのルートを考える時、最短距離を取るよりも、交通量が少ない長いルートの方が実際には時間的に速いかも知れないということに気づいたりします。しかし、特殊な考え方は周りには理解されないことが多く、衝突してしまうこともあります。
完璧主義は、他人からの期待だけではなく、自分自身の基準や期待という点においても完璧主義者です。
自分自身の期待を満たしたいという衝動があり、誰も周りは必要性を感じていなくてもできないと罪悪感、劣等感を伴うことがよくあります。
感情・心理的な特徴
- 感受性が強い:他人の感情に敏感で、強い共感力を持つ。
- 深い内省:自分自身や人生について哲学的に考えることが多い。
- 刺激に敏感:音や光、環境の変化に対して過敏に反応することがある。
- 感情の振れ幅が大きい:気分のアップダウンが激しく、繊細な心を持つ。
人生の多くの領域に渡って強い感情を抱いていることが多いのがギフテッドの大きな特徴の一つとされています。
また、不公平さや、危険性がわかるため、一見矛盾した短絡的な他人の行動を理解するのが難しいという特性もあります。
自分の内面的な経験や自分自身を理解するために、静かな時間を必要とします。なかなか現代の多忙な生活様式には、熟考する時間が組み込まれていないので、自ら内省する時間を確保する必要があります。
社会的な特徴
- 社交性にばらつきがある:人と深く関わることを好むが、表面的な会話には興味を持ちにくい。
- 権威やルールに疑問を持つ:伝統や慣習に従うよりも、合理性や独自の価値観を重視する。
- 孤独を感じやすい:周囲との違いに気づき、孤立感を抱くことがある。
- 興味の合う人とは深い関係を築く:本当に理解し合える人とのつながりを大切にする。
ギフテッドの大人は、自分の興味を共有する人と関係を築きます。
そのため、友達の輪が狭かったり、時には一人だったりすることもありますが、人間関係は深く築くとされています。
中には、リーダーシップの資質を持ち、集団や国家にインスピレーションを与える人もいます。
職場・仕事での特徴
- ルーチンワークが苦手:単調な作業よりも、創造的・知的刺激のある仕事を好む。
- 多様なキャリアを持つ:興味の移り変わりが早く、複数の分野で活躍することも多い。
- 自己実現を重視する:単なる収入よりも、意味のある仕事ややりがいを求める。
想像力と創造性は一般的な人には理解できないことがよくあります。
聡明で革新的なアイデアを生み出す一方、自己中心的で幼稚なアプローチのため、他の人々と一緒に仕事をするときに困難が生じることがあります。
上司の決定をただ素直に受け入れられなかったり、矛盾点をときには指摘してしまい、上から目線だと捉えられることもあるかもしれません。
社会ではギフテッドに対する理解がまだ不十分のため、ギフテッドの大人たちが持つ潜在能力を十分に発揮できません。
このあたりが、職場でうまくいかない原因の一つとして考えられます。
ギフテッドの特徴は大人になるとなくなる?
「Gifted Adults: Their Characteristics and Emotions」の著者 Annemarie Roeperによると、以下のように書かれています。
才能は社会において、プラスにもマイナスにも作用する可能性がある。ギフテッドの大人の特徴は多くの場合幼少期に現れ、人生経験を形作る。また、子供の頃と同じ特徴が生涯を通じて存在し、成長するにつれて多少変化する。
このように生涯続くとされていますが、環境や成長によっても多少変化するようです。
子どもの頃の特徴は以下の記事にまとめています。

ギフテッドは「十で神童十五で才子、二十歳すぎたらただの人」なのか
- ギフテッドは大人になったら「ただの人」になるのか
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ギフテッドの知的な能力や創造力は消えることはないとされています。しかし、社会においてはその才能が十分に評価されないこともあるため、その存在が見過ごされることがあります。
それでも、「十で神童十五で才子、二十歳すぎたらただの人」と言われる理由はなぜしょうか。
そもそも「ギフテッド=神童」でないのですが、このように言われる理由は、ギフテッド児たちは学校という場で「周りと同じに見せる方法」を身につけたり、アンダーアチーバーのように知性を隠す手段を身につけていくので、大人になるにつれてそう見えるというのが理由の一つにあります。
二つ目は、幼少期に英才教育で親が知識などを年齢相当より先に詰め込んだ場合、小さい頃は「この年でこんなことも知っているの?」ということが頻繁に起こります。
しかし、歳を重ねるにつれて徐々に周りの知能が年齢とともに追いついてきて、周りとの差がなくなったため「ただの人」になるというケースもあります。その場合は、本来の意味での「ギフテッド」とは言えません。
大人のギフテッドが生きづらさを感じやすい点
冒頭にお伝えした通り、ギフテッドの大人が社会で生きづらさを感じるケースは少なくありません。
社会とのギャップ:考え方や価値観が一般的な枠組みと合わず、孤独を感じることがある。
自己否定や不安:周囲との違いに悩み、自己評価が低くなることも
燃え尽き症候群になりやすい:完璧を求めすぎたり、理想と現実のギャップに苦しむことがある。
ギフテッドの子どもはよくテレビなどで取り上げられていますが、吉沢拓さんは自身の経験などをSNSや取材などで発信されている大人のギフテッドです。社会に出てからの生きづらさについての記事はこちら。

吉沢拓さんの幼少期から学生時代の様子はこちらの記事に書かれています。自由で有名な麻布中学校出身だそうです。

大人のギフテッドは、才能の否定や他人からの拒絶などに絶えず直面します。そのため、自分自身を大切にし、他人からのサポートを見つけることがとても大切になります。
ギフテッドの大人が生きやすくなるためのヒント
「Issues for Gifted Adults」by. Deirdre V. Loveckyによると、自己成長のヒントを5つ挙げています。
Nurturing the Self 自己を育てる
Knowing oneself 自己を知る
Accepting oneself 自己を受け入れる
Finding sources of personal power 個人的な力の源を見つける
Nurturing Interpersonal Relationships 対人関係を育む
自分自身を理解し、愛し、受け入れることが大切であり、自己を知るためには、「自己の象徴(personal symbols)」を発見すると、自分の洞察力や直感の価値を見出す手助けになるとのこと。
「自己の象徴」は、空想や夢の分析、詩の執筆、日記を書いたり、スケッチなど様々な方法で探究できるとしています。
周りに合わせるのではなく、自分らしさを大切にし、同じ価値観や興味を持つ人と繋がることも生きやすさに繋がる一つの方法です。
「大人のギフテッド 高知能なのになぜ生きづらいのか?」
近年、興味深い題名の本が出版されたので手に取ってみました。
その名も「大人のギフテッド 高知能なのになぜ生きづらいのか?」
Amazonの評判は賛否両論ありますが、興味をそそる題名だったので読んでみました。あまり大人向けのギフテッド本は出版されていないので、ご自身がギフテッドである方や、そうかもしれないと感じておられる方は一読する価値はあるのではないかと思います。
目次
第1章 ギフテッドとはどういう意味?
第2章 なぜギフテッドの大人に関心を抱くことが重要か?
第3章 子どもから大人へ…自己構築の難しさ
第4章 大人になってギフテッドであることに気づく
第5章 個性は思いがけない多様な面をもつ
第6章 ギフテッドの大人であることの難しさ
第7章 女性の側
第8章 カップル…似た者同士が一緒になる?
第9章 そしてうまくいっている人たちは?
第10章 うまくいくにはどうしたらいいのだろう?
第11章 すべてがうまくいかないとき
結論に代えて
ギフテッド児を育てる側として心に響いた章
本の中で印象的だった箇所は、第9章の中にある「幸せな大人になる子どものギフテッドの歩み」という項目です。
その子の価値を認め、褒めて、励ますことの重要性を理解している愛情に満ちた家庭環境こそが大切としています。それらがギフテッド児が発達する上での糧となる。愛をたくさん注がれることが必要とのこと。
彼らは欠点を理解しているから思い上がることは決してない。もし自惚れているように見えたら自尊心からだとしています。
この本にもあるように、ギフテッドの子が大人になる前に必要なのものは安心できる言葉、愛をたくさん注がれる事なのだと改めて感じました。
参考文献
「Gifted Adults: Their Characteristics and Emotions」
「大人のギフテッド 高知能なのになぜ生きづらいのか?」
「Gifted Adults in Work」 Davidson Institute
「Issues for Gifted Adults」by. Deirdre V. Lovecky