「多動・落ち着きなく動き回る」「不適切な行動が多い」「自分の非を認めない」「すぐ他責にする」
一見、発達障害のようにみられますが、実は「愛着障害」でも起こります。
これが愛着障害でも起こることを知らないと「 うちの子、発達障害かもしれない…」とまずは発達障害を疑うでしょう。まさに、筆者である私がそうでした。
医師に現状起きていることを相談していくうちに

それは愛着障害かもしれません。
そこで初めて「愛着障害」という言葉に出会います。実は、発達障害と愛着障害は非常に似た行動特性を示すため、間違えられることが多いそうです。
「愛着障害」と聞くと、「親のせい、育て方に問題があったのかな」と思われるかもしれません。医師としても、愛着障害というのを親に告げにくいがために、治療ができる発達障害の診断を下すこともあるいうくらい愛着障害についてはまだまだ知られておらず誤解も多いそうです。
本記事では、まだあまり周知されていない愛着障害について、わが家が直面した愛着形成に関する問題や、専門家に言われた内容をご紹介しながら解説します。
当時、すぐにアマゾンで買った本が和歌山大学教育学部教授 臨床発達心理学専門の米澤好史氏による「やさしくわかる! 愛着障害―理解を深め、支援の基本を押さえる」という本でした。こちらは後半は教育現場の先生向けに書かれています。
その後、2022年に出版された本「愛着障害は何歳からでも必ず修復できる」は保護者向けに書かれており、どう修復していくのかまで書いてありとても参考になりました。保護者の方にはとてもおすすめの一冊です。
愛着障害とは
「愛着」とは、日常的には「物や人に対する強い思い入れ」などとして使われますが、心理学の分野では、より専門的な意味を持っています。ここでいう、「愛着・アタッチメント(Attachment)」とは、主に子どもが特定の他者との間に築く情緒的な結びつきのことを指します。
「愛着理論」は、心理学者ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)によって提唱された理論です。人間には生まれつき特定の他者に対して安全基地(secure base)を求める本能があると考えました。この絆(愛着)が安定して築かれることが、子どもの情緒の安定や社会性の発達の基盤になるとされています。
「愛着障害」とは、特定の人と結ぶ情緒的な絆ができていない状態、つまり「愛着形成不全」のことをいいます。ここでいう「特定の人」というのは親とは限りません。
「愛着障害」に関しては、心理学的診断基準(DSM-5)では、「反応性愛着障害(RAD)」と「脱抑制型対人交流障害(DSED)」の2つの型に分けられていますが、本記事では、この狭義での愛着障害については触れていません。
本記事においては、「愛着障害」を米澤好史氏の提唱する愛着の問題を抱える「感情発達の障害」として広義で捉えています。
愛着形成には以下の三つが必要だとしています。
・安全基地(不安や恐怖から守ってくれる機能)
・安心基地(一緒にいるとホッとするなどポジティブな感情を生み出す機能)
・探索基地(報告することで一人で経験したポジティブな感情を増強し、ネガティブな感情を軽減する機能)
これらの愛着の基盤が形成されていないために起こる「感情発達の障害」が愛着障害なのです。
愛着障害のウソ・ホント
愛着障害に関してはあまり知られておらず、誤解が多くあるとされています。以下に挙げる項目はすべて間違いだとされています。
・虐待を受けた子どもだけが愛着障害になる
・親の育て方に問題がある
・共働きや片親だとなりやすい
・生まれつき愛着障害の場合はどうしようもない
・大きくなってからは愛着形成や修復はできない
生まれつき愛着障害の子はいません。後天的な障害だとされています。
愛着障害は親の育て方だけが原因ではなく、子どもの特性や親子の関係性も影響します。同じ親の関わり方でも、子どもの特性によって愛着の問題が生じる場合があります。
実際に同じように育てていても、兄弟間で片方のみ愛着の問題を抱えているケースもあります。実際にわが家も、息子は愛着形成ができていないと医師に言われましたが、娘はできていると感じます。これはやはり育て方だけではなく、本人の特性もあると考えるのが自然かと思います。
こちらの本もおすすめです。


アタッチメントのパターンとスタイル
安心安定型と不安定型、回避型、無秩序型などに分類され、行動面に問題が表れやすいのが特徴です。
アタッチメント(愛着)スタイルは、幼少期における養育者との関係性を通じて形成される、人とのかかわり方や感情の安定性に関わる心理的なパターンです。2歳ごろには、アタッチメント行動が内在化され、主に以下の4つに分けられます。
例えば、保育園など一時的な母子分離と再会をイメージしてみてください。
タイプ | 特徴 |
---|---|
安定型(安定した愛着) | 分離の時、泣くが養育者が戻ってくると安心し、すぐに落ち着く |
回避型(不安回避型) | 養育者がいても関心を示さず、戻ってきても無反応 |
アンビバレント型(不安抵抗型) | 分離の時、泣き、戻ってくると養育者に強くしがみつくが、同時に怒りや不安を示す |
無秩序型(混乱型) | 養育者の反応が予測できず、混乱したりフリーズしたりする |
1. 安心型愛着(Secure Attachment)
- 養育者が一貫して愛情深く接することで形成される。
- 他者を信頼し、自分自身も価値ある存在と感じる。
- 他者との距離を適切に保ちながらも、親密な関係を築ける。
- ストレスに対して比較的強く、自己調整能力も高い。
- 親が離れると不安がるが、戻ってくると安心して甘える。
- 他者に助けを求めたり、自分の感情を適切に表現したりできる。
人見知りの時期はお母さんと離れると泣いたり、他の人に抱っこされると大泣きしたりします。このように、人見知りがあると「アタッチメントの形成ができている、心理学的にはやった!と思う」専門家の方がおっしゃっていました。
2. 不安型愛着(Ambivalent / Anxious Attachment)
- 養育者の対応が一貫しておらず、過干渉だったり、無関心だったりすることで形成される。
- 他者からの承認や愛情に強く依存し、不安が強い。
- 捨てられる不安や過度な心配がある。
- 感情の起伏が激しく、人間関係で疲れやすい。
- 親にしがみつきながら怒る、離れることに強く反応。
- 慰められてもなかなか落ち着かない。
3. 回避型愛着(Avoidant Attachment)
- 養育者が冷淡、拒否的、感情的なつながりに乏しい場合に形成される。
- 他者との親密さを避け、独立心が強すぎる。
- 感情表現が苦手で、他者に頼ることを拒む傾向。
- 傷つきやすいが、それを隠そうとする。
- 親からの慰めを求めず、一人で対処しようとする。
- 親が戻ってきても無反応、または関心がないように見える。
後ほど、実体験をもとにお伝えしますが、わが家はこのケースでした。
4. 無秩序型愛着(Disorganized Attachment)
- 養育者が虐待的だったり、恐怖の対象となっている場合に形成される。
- 愛着対象(親)が「安心の源」であると同時に「恐怖の源」であるため、矛盾した行動をとる。
- 自己や他者に対する信頼が持てず、感情の統合が難しい。
- トラウマや精神的な問題のリスクが高い。
- 親に近づきたいけれど逃げる、混乱したりフリーズしたりする。
- 行動が一貫しておらず、不安や恐怖が強い。
このケースは虐待などが原因となっており、全体の2%くらいの割合で、滅多にないとおっしゃっていました。
【体験談】わが家のケース 愛着形成の難しさ
小さい頃から、ほとんど人見知りをせず、他の人に抱っこされても大泣きをするということもほぼありませんでした。
成長も早く10ヶ月で歩けるようになった息子ですが、自分で歩けるようになってからは、「抱っこ抱っこ」とせがむより、ベビーカーなんて降りて自分で歩きます!と言わんばかりの自立型の子でした。
その後、1歳の頃、初めて母子分離を経験するのですが、初回も泣かずに母子分離もスムーズにでき、教室の中に入って行きました。ママと離れることよりも、今から起こるであろうことにワクワク感の方が勝るというような感じでしょうか。
また、3歳の記録のところでも書きましたが、幼稚園の初日も泣かずに振り返りもせず教室に入って行きます。


一見、この泣かないという行為は「育てやすい」と思われるかもしれません。しかしそれは愛着形成ができていないサインかもしれないのです。
通常、母子分離の際や見知らぬ人に会うと、子は泣き、不安を感じます。そして養育者は即座に反応し、あやしたり、抱っこしたりします。それが子どもにとって安全基地となり、愛着形成がされていきます。
しかし、子の特性として、淡白なタイプでどっしりとした自立型の場合だったり発達障害を併せ持つ場合、子どもからのサインがないため、お母さん側としては、必要以上の関わりを持たないことがあります。
言われたこととしては、一見、「手がかからない子」と思ってしまいがちですが、このタイプの場合、子どもからのサインをよく捉えて愛着形成をする必要があるとのことでした。
息子の場合でいうと、「人見知りをしない」「母子分離でも泣かない」ということが子どもからのサインだったのです。私も手がかからないと思っていたので、そのまま愛着形成がうまくできずに大きくなってしまいました。
それが、いつ問題となるかというと、当サイトでもお伝えしているとおり小学生の頃、いろいろな環境要因が重なり、様々な問題行動をするようになります。
この問題行動の原因が愛着形成ができていなかったからだと知ったのは、息子が10歳になった頃でした。一連の行動を医師に相談したところ、幼少期に愛着形成ができていなかったため、二次障害として愛着障害を起こしていると指摘されたのです。


正直、「愛着障害かもしれません」と医師に言われた時、母親である私は、「愛情をしっかり注いで育てたのに」と思いました。しかし、幼少期の関わり合い方を振り返るうちに、3つの基地(安心基地・安全基地・探索基地)が形成されていないかもしれないと思うと全てが納得できました。
次に、愛着障害の場合の特徴についてです。
愛着障害の特徴・症状
愛着障害の特徴は感情発達の障害として現れます。主に人との関わりの際に、現れてきます。
愛情欲求行動
注目されたいがために、アピール行動としてわざと不適切な行動をします。
ものを隠す、嫌がらせをする、強い愛着障害の場合は自作自演という特徴が現れることも。
わざと親が困ることをして反応を見る、あるいは、それをみた人が驚いたり反応するのをみたい、注目されたいために不適切な行動をとる、といった様子が見られます。
自己防衛
誰も守ってくれないから自分で自分を守るしかない、自分の非を認めたらもっと叱られてしまうかもという気持ちがあるため、自分の非を認めません。
何か不適切な行動や言動が見られたときに「謝りなさい」と言うのは、親としてやりがちですが、愛着障害においては、それ以前にやらなければいけないことがあります。
愛着障害においては、自分のしたことを認めさせるということは、しつけのスタートではなくゴールだそう。悪いことをしたのを認めてもいいのだという気持ちになれるように支援していくことが大切だそうです。
まさに、息子の場合「やっていない。僕のせいじゃない」と他責にばかりしていました。「謝りなさい!」という前にやるべきことは愛着形成だったのです。
自己評価の低さ
愛着形成の基地機能の一つである「探索基地」ができていないとポジティブな感情である意欲を誰も育んでくれない、そしてネガティブな感情は減らないということから、自己評価が低い特徴があります。
自身のなさや自己否定だけではなく、逆に、虚勢を張ったり、誰かよりも上に立つことでネガティブな感情を紛らわせるといった行動が見られます。
愛着障害と発達障害
愛着障害は生まれた後に愛着という関係性を結べなかった後天的な関係性の障害であるのに対し、発達障害は生まれつき持った脳機能障害であり、先天的な特性です。
見分け方としては、ADHDは行動の障害・ASDは認知の障害・愛着障害は感情の障害という違いがあります。その他の見分け方は以下のとおりです。
愛着障害 | 発達障害 | |
---|---|---|
原因・背景 | 愛着形成不全であり後天的 | 生まれつきの脳機能の特性 |
多動 | 気分や感情に左右される | ASD:居場所感が奪われるとおこる ADHD:いつもどこでも |
人間関係の傾向 | 極端な距離感(過剰な依存や回避)、他者への不信感 | 一方的で不自然な関わり方、空気を読みにくい |
感覚の特性 | 安心基地がないため接触快を求める(触る・口に入れる) | 感覚過敏・感覚鈍麻(音・光・触覚などへの過敏さ) |
行動の一貫性 | 状況・相手により変わることが多い | どの環境でもほぼ同様の特性が見られる |
情緒の安定性 | 感情の爆発、不安定、不適切な感情表出 | ASD:感情を表出しづらい ADHD:衝動的・不注意傾向 |
改善の可能性 | 安定した愛着関係が築かれることで改善する可能性あり | 環境調整や支援で適応は促されるが、特性は生涯続くことが多い |
片付けが苦手 | 綺麗だと気持ちがいいというポジティブな感情が育っていない | 実行機能が弱い |
そして、愛着障害と発達障害は、併存することもあります。
特に、自己の感情や他者の感情を認知するのが苦手という特徴があるASDの場合、安心基地や安全基地の形成がしづらいことがあります。
先ほどわが家の赤ちゃんの頃から幼少期の例を挙げましたが、おそらくASDの特性やギフテッドの特性である早熟さなどが複雑に作用し、私自身、サインを見逃してしまっていたのだと思います。これが、発達特性がある場合、愛着形成をすることが難しい要因だと思います。
ASDの場合、「この人といるとホッとする」というような感情を認知、共有することが難しい、または感情が育っていない場合があります。感情のラベリングをしたり、本人の気持ちを認めた上で認知を広げていくという支援をしつつ、安心基地を作って行く必要があります。
親子関係で大切なこと
第一子を出産し、日々育児に追われる中、これらのことを知っているご両親はどれくらいいるのでしょう。私自身も新米ママとして育児本もたくさん読みながら愛情を注いで育てていたつもりですが、愛着(アタッチメント)や発達障害については無知でした。その結果、後々大変なこともありましたが、題名にもあるように、何歳からでも必ず修復できるという言葉を信じ、アタッチメントのし直しを試みているところです。
「もう、うちの子赤ちゃんじゃないけどどうやって?」
と思われるかもしれません。10歳を過ぎた子を抱っこしてあやすわけにもいかないので、どのように修復をすれば良いのでしょう。やはり年齢によって修復の方法は異なります。
基本的には愛着障害の場合、まずは「安心基地」を作ること。愛着対象であるキーパーソンを設定し、一対一の関係を作り、この人となら何をしてもポジティブな感情が生まれると気づくところから始めます。それが安心基地となります。
一対一で一緒の活動をする。これがポイントです。一緒の活動を通して、気持ちの共有や認知を広げていきます。具体的にわが家がどのような活動をしたかについてはここでは触れませんが、大切なことは「子どもからのサインを見逃さないこと」です。
「安心基地」ができると、そんな人なら危ない時、不安な時も守ってくれるだろうという「安全基地」が意識されていき、特定の人から離れても受容してもらえるという「探索基地」ができ、そして最終的に精神的にも自立していきます。
愛着障害やアタッチメントについて初めて聞いたという方もいらっしゃるかもしれません。愛着形成が成長においていかに大切で成長の土台となることがお分かりいただけたら幸いです。
参考文献 愛着障害は何歳からでも必ず修復できる 著 米澤好史

