近年、「ギフテッド」や「HSP(Highly Sensitive Person ハイリー・センシティブ・パーソン)」という言葉を耳にする機会が増えました。
それぞれ異なる定義や背景があるものの、共通する特徴があるため、混同されやすい両者ですが、結論からお伝えすると、ギフテッド=HSPではありません。
本記事では、ギフテッドとHSPの共通点と違いついてまとめました。もう一つの似ている言葉、「感覚過敏」についても触れています。
ご自身やお子さま、周囲の人の特性を知る手がかりとして、ぜひご一読ください。
ギフテッドとは
ギフテッド(Gifted)とは、知的能力・創造性・芸術性などにおいて、優れた能力を持つ人を指します。知能検査で測れるIQだけではなく、芸術、リーダーシップなども含まれます。
主に以下のような特徴が見られます。
- 高いIQ(130以上が一つの目安とすると人口の2〜5%)
- 独創的な思考力や問題解決能力
- 知識欲が非常に強い
- 興味のあることに極端に集中する
- 感受性が豊か(OE:Overexcitability)
ギフテッドは医学的な診断名ではなく、日本では定義付けはされておらず、診断機関もありません。ギフテッドについて詳しく知りたい方はこちらの記事もおすすめです。

HSP(Highly Sensitive Person)とは
HSP(Highly Sensitive Person)とは、刺激に対して非常に敏感で、深く物事を感じやすい気質を持つ人のことで、米国の心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念です。著書である「The Highly Sensitive Person: How to Surivive and Thrive When the World Overwhelms You」は世界中22ヶ国語で翻訳されており世界共通の概念であることがわかります。
人口の15〜20%がHSP気質を持つとされており、HSPの気質を持つ子供のことをHSC(Highly Sensitive Child)といいます。HSPは内向的だと思われがちですが、HSP気質を持つ人のうち約70%は内向的で、残りの約30%が外交型に該当すると言われています。
- 他人の感情に敏感で共感力が高い
- 五感が鋭く、音や光、匂いに過敏
- 一度に多くの刺激を受けると疲れやすい
- 深く考え、内省する傾向がある
HSPは、病名や疾患名ではないため、精神疾患の診断基準であるDSM-5にも掲載されていません。エレイン・アーロン博士が作成した公式なチェックリストが最も有名です。チェックリストのうち12項目当てはまるとHSPの傾向があるとされています。
チェックリスト
- 自分をとりまく環境の微妙な変化によく気づくほうだ
- 他人の気分に左右される
- 痛みにとても敏感である
- 忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋などプライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所にひきこもりたくなる
- カフェインに敏感に反応する
- 明るい光や、強い匂い、ざらざらした布地、サイレンの音などにに圧倒されやすい
- 豊かな想像力を持ち、空想に耽りやすい
- 騒音に悩まされやすい
- 美術や音楽に深く心動かされる
- とても良心的である
- すぐにびっくりする(仰天する)
- 短期間にたくさんのことをしなければならない時、混乱してしまう
- 人が何かで不快な思いをしている時、どうすれば快適になるかすぐに気づく(たとえば電灯の明るさを調節したり、席を替えるなど)
- 一度にたくさんのことを頼まれるのがイヤだ
- ミスをしたり物を忘れたりしないよういつも気をつけている。
- 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている
- あまりにもたくさんのことが自分の周りで起こっていると、不快になり神経が高ぶる
- 空腹になると、集中できないとか気分が悪くなるといった強い反応が起こる
- 生活に変化があると混乱する
- デリケートな香りや味、音、音楽などを好む
- 動揺するような状況を避けることを、普段の生活で最優先している
- 仕事をする時、競争させられたり、観察されていると、緊張し、いつもの実力を発揮できなくなる
- 子供のころ、親や教師は自分のことを「敏感だ」とか「内気だ」と思っていた
引用:『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』エレイン・N・アーロン [著]・冨田香里 [訳]
HSPの特徴的な特性「 D.O.E.S.」
アーロン博士によると、HSPの人は内向的、外向的に関わらず4つの特性があるとしており、頭文字をとって「DOES」(ダズ)とよばれています。
1) Depth of Processing(情報処理の深さ)
考え事をする時間が長く、過去のことと関連付けたり、あらゆることを想定して情報を処理します。「自分の言葉で相手がどう思ったか」などあれこれ考えても結論が出ないことも考えてしまい、他のことが手につかなくなったりしてしまいます。
2) Over Stimulation(刺激に対し敏感)
外部からの刺激に過敏なため、光や音、匂いといった外部からの刺激に感覚が敏感になります。混雑した電車や、騒がしい空間などが疲れてしまうため、1人の安心して落ち着く空間を求めます。
3) Emotional Responsiveness & Empathy(感情の反応が大きく、共感性が高い)
共感性が高いため、人の気持ちに引きづられてしまうことも。他者に感情移入しやすいのも特性です。自分とは関係ないことでも、悲しいニュースで傷ついてしまったり、自分のことのように感じてしまいます。
4) Sensitive to Subtleties(些細なことに気づく)
人が気づきにくいことに気づいたり、他者の言動にも敏感です。話し声や相手の感情を読み取ることができる反面、色々なことも考えてしまいます。
【共通点】ギフテッドとHSPが似ている5つの理由
ギフテッドとHSPはまったく別の概念ですが、以下の点で共通する特徴があります。
- 感受性が強い
どちらも感情や感覚への反応が鋭く、周囲の影響を受けやすい傾向があります。 - 社会的違和感を覚えやすい
「周囲と違う」と感じることが多く、孤独や疎外感を抱きがちです。 - 疲れやすい
外部刺激や内面的な思考の多さにより、精神的に疲れやすい共通点があります。 - 共感性が高い
他人の気持ちに敏感で、無意識に感情を受け取ってしまうことも。 - 自己理解の難しさ
自分の特性を言語化できず、誤解されたり、自信を失ったりすることが多い。
【相違点】ギフテッドとHSPの本質的な違い
両者に見られる感受性の強さですが、相違点としては、HSPは刺激に対して過敏(繊細)なのに対し、ギフテッドの場合は、刺激に対して過剰に反応(過剰・強烈)といった違いがあります。
また、感情面に関しては、HSPは共感力が高く、感情が移りやすいのに対し、ギフテッドの場合は、感情の起伏が激しく、ドラマチックな反応を見せるなどといった違いがあります。
また、HSPを提唱したエレイン・N・アーロン博士自身は、自身のHP内の「Is Sensitivity the Same as Being Gifted?」というコラムで、HSPとギフテッドについて述べています。
「すべての才能のある人が非常に敏感であるわけではありません。私は才能のある非HSPを多く知っています。すべての非常に敏感な人々が才能があるわけではない」
才能の高さも違いの一つと言えるでしょう。
ただし、HSPとギフテッドのどちらにも属する人もいます。ちなみに息子は、HSPのチェックリストはほぼ当てはまらないため、HSPではないと考えられます。
HSS型HSPはギフテッド?
ネットで「HSS型HSP」という表現をよく見かけますが、HSS(High Sensation Seeking = 刺激追求型)は、HSPとは別の概念です。提言者もアーロン博士ではありません。HSSという概念はマービン・ザッカーマン氏(Marvin Zuckerman)が提言した「強い刺激を求める人」のことを指します。
この二つを組み合わせて「HSS型HSP」と表しています。
HSSの特徴としては以下のようなものが挙げられます。
- 多様で斬新で複雑な経験を求める
例)好きだとわかっている場所にもう一度行くよりは、好きにならないかもしれないが新しい場所に行きたい。 - スリルと冒険を求める
例)スキーやスカイダイビングなどスリルを味わえるスポーツをしてみたい。 - 脱抑制と衝動性
例)私が何をしでかすか予測つかない、と友人は言う。 - 退屈しやすさ
例)会話によっては、とんでもなく退屈する事がある。
する事もなく待つのが嫌。毎日同じ人と一緒にいると飽きる。
どうでしょう、常に刺激を求めたり、好奇心旺盛なところはギフテッドの特性ととても似ていると思われたのではないでしょうか。ここからは持論になりますが、HSP=ギフテッドではないことからも、イコールではないと思いますが、ギフテッドとHSS型HSPはとても近いところにあるのではないでしょうか。
HSE型HSP
また似たアルファベットが並んでいるので混同してしまいそうですが、こちらは「外向型HSP」とよばれるものです。
HSEとは「The highly sensitive extrovert 」(非常に敏感な外向型)のことです。
HSEとHSPは相反する特性だと思われるかもしれません。このタイプのHSPは社交的でありながらも繊細さを持っているため、人付き合いをしすぎて結果的に疲れてしまうことがあります。
このように、HSPと一言でいってもタイプや種類があるため、同じ症状であるとは限りません。
HSS型HSPは、興味関心は外部に向いており、外部に刺激を求めるが、社交的ではない「刺激追及型の繊細さん」
HSE型HSPは、社交的で人との関わりを持つことが好きな「外向型な繊細さん」
参照 The Highly sensitive person
感覚過敏とは
もう一つ、似ている言葉に「感覚過敏」があります。
感覚過敏(かんかくかびん)は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの諸感覚が過敏で日常生活に困難さを抱えている状態である。感覚過敏は病名ではなく症状である。
Wikipediaより
聴覚の問題
(1) 泣き声や電子音など特定の音が苦手
(2) 同時に複数の人が話している場合に会話の聞き取りが困難
(3) 周囲の雑音など注目すべき音以外が大きく聞こえてしまう
(4) 大きな音が苦手
(5) 突然生じた(ように感じられる)音が苦手
視覚の問題
(1) 強い光やチカチカした光が苦手(まぶしさ)
(2) 同時に来る複数の視覚刺激がつらい
(3) 色や形など特定の苦手なものがある
(4) 読みの困難
(5) 見え方の異常(奥行がわからない、ぼやけや揺れなど)
触覚の問題
(1) タグや縫い目が皮膚にあたると苦痛であるなど服に関する問題
(2) 水や粘土など特定の苦手なものがある
(3) 人と接触するのが苦痛
(4) 痒みなどの問題
嗅覚の問題
(1) タバコや香水など特定の苦手なものがある
(2) 同時に来る複数のにおいがつらい
味覚の問題
(1) 苦手な食感がある
(2) 苦手な食べ物がある
(3) 苦手な味がある
感覚過敏の場合、五感に関する刺激を過敏に感じてしまうという特性です。
「感覚過敏」は病名ではありませんが、自閉症スペクトラム(ASD)の診断の一つに感覚過敏や鈍麻があると米国精神医学会の診断基準(DSM-5)に記載があります。
また、国立障害者リハビリテーションセンターは、発達障害のある人の感覚の問題を調査したところ、感覚の問題が最も顕著なのは聴覚であるが、自閉スペクトラム症(ASD)のある人では触覚の問題も無視できないことを発表しています。
発達障害の場合、感覚過敏であることが多いとされていますが、感覚過敏があるから発達障害、発達障害があるから感覚過敏があるというわけではありません。
参考図書 敏感すぎる私の活かし方 高感度から才能を引き出す発想術 (フェニックスシリーズ)
高IQ・高知能の感覚過敏とアレルギー

この図はアメリカのメンサ会員 3715人を調査した研究で、参加者にグラフの左側から、気分障害、不安障害、注意欠陥多動障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、食物アレルギー、環境アレルギー、喘息、自己免疫疾患などの生理学的疾患の診断済みおよび/または疑いの有病率を自己申告するよう求めその結果をグラフにしたものです。
全国平均統計と比較した場合、メンサグループの方が不安障害、アレルギー、喘息、自己免疫疾患などの症状を抱える可能性が一般的なIQ値の人よりも高かったという結果を表したものです。
つまり、知能の高い人は心理的および生理学的障害を経験するリスクが著しく高いということを意味しており、高い認知能力を持つ人は、環境に対して過度の反応を示すと仮定しています。
同じような内容として、「ギフティッド その誤診と重複診断: 心理・医療・教育の現場から」に、ギフテッド児はアレルギーや喘息といった免疫障害を抱える傾向が高いとされており、その結果、イライラして多動傾向が見られたり、癇癪を起こしてり、衝動的になってしまうこともあるとのこと。
これがADHDや反抗挑発症と誤診されやすいとも書いてあります。
また高IQ・高知能の場合、中枢神経系が過度に興奮し、過剰に反応する傾向があるとの研究結果もあります。
心理学研究レポートを掲載しているインテリジェンス誌の「High intelligence: A risk factor for psychological and physiological overexcitabilities」によると、高い知的能力を持つ人は、さまざまな領域で過剰な興奮を持っており、不安障害や、感覚の亢進、免疫反応や炎症反応の変化を伴う生理学的危険因子になる可能性があるとしています。
シルバーマンによるデータによると、通常の子供のアレルギーの割合は20%であるのに対し、IQ160以上の子供は44%だったとの調査結果があり、ギフテッド児は人一倍激しいという特性があり、これが、交感神経系や中枢神経系に影響を与えている可能性があるとしています。
花粉アレルギー
実際に、息子もギフテッドの特性を持っており、3歳でスギ花粉アレルギーと診断されています。私も夫も花粉症とは無縁だったため、最初はとても驚きました。
ギフテッド児はアレルギー、喘息、自己免疫疾患が想定よりも多く生じることは報告されており、何らかの関係はあるとされています。
ギフテッドの人が実際にアレルギーや自己免疫疾患に罹りやすいのか、それとも過剰に反応しているだけなのかははっきりしていませんが、ギフテッドの感覚の過敏さはアレルギーという面でも出るようです。
参照ギフティッド その誤診と重複診断: 心理・医療・教育の現場から
楽になる方法
感覚過敏やHSPの傾向があり生きづらさを感じた場合は、現在の医学では、治療することはできないため、一つ一つの症状に対処していく方法をとることが多いようです。
対処方法としては、苦手なことを無理強いするのではなく、軽減させるための工夫を考えて試していく方が良いとされています。
一人ひとり特性を踏まえた対応方法を見つけることで、「生きづらさ」を「生きやすさ」を変えていくようにします。
・直そうとするのではなく、人とは感覚が異なることを説明し、その特性と付き合っていけるように本人に説明する
・スモールステップによる支援(少しずつ成功体験を重ねていくなど)
・感覚過敏がある場合は、音や室温など感覚面の調整を出来る範囲で行う
・日常生活に不自由なレベルの場合は専門家などに相談する
・感覚よりも行動を優先出来るようになるタイミングまで見守る
本もたくさん出版されているのでそれらを手に取ってみるのも良いでしょう。自分自身を理解し受け入れるきっかけになるかもしれません。
聴覚
騒音が気になる場合は、イヤーマフを活用する方法もあります。デジタル耳せんは、騒音はカットし人の声だけ聞こえます。電車内でもアナウンスだけ聞こえて環境騒音はカットするので落ち着いて乗っていられます。
触覚
感覚過敏のため、マスクが付けられないという子も多いと思います。心地いいものを身につけるというのも対処方法の一つです。
どうしてもつけられない場合は周囲に理解を求める缶バッチなどもあります。
嗅覚・視覚・味覚
嗅覚過敏の場合は、マスクをして匂いを防いだり、お気に入りの香りを持ち歩くといった対応があります。
視覚過敏の場合は、メガネやサングラスをかけて目からの刺激を抑えるのも方法の一つです。
味覚過敏の場合は、苦手なものは無理に食べないようにしたり、調理方法を工夫するといった方法があります。
ヘルプマークも最近は良く見かけるようになりました。これは外見からはわからない障害があったり、援助や配慮を必要としている人向けに東京都が2012年から取り組みをはじめました。今現在多くの都道府県で配布されるようになり、周囲の人に配慮が必要であることを知らせることが出来るようになりました。配布場所は、各自治体によって異なりますが、保健センターや市区町村の担当窓口でもらえます。Amazonにもいろいろなタイプが売っています。
発達凸凹を助けてくれるグッズは楽天ROOMにまとめています。

よくある質問
- ギフテッドとHSPを見分ける方法はありますか?
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ギフテッドは知能検査や面談等で医師により客観的に判断されるのに対し、HSPは主に自己申告によるチェックが中心です。両方の特性を併せ持つ人もいるため、専門家の診断や多角的な観察が有効です。
- 子どもがどちらの気質か分かりません。
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お子さんの行動パターンや反応、学校での様子などを丁寧に観察しましょう。ただし、どちらかにラベリングすることが大事なのではなく、その子の困り感や生きづらさを軽減していく方法を見つけていくのが良いでしょう。
まとめ
一言に「感覚過敏」といっても多様な要因と個人差があります。また、感覚過敏だから発達障害、HSP、ギフテッドだと断定するものでもありません。
発達障害、HSP、ギフテッド…どれに当てはまるかではなく、本人の「生きづらさ」に寄り添った柔軟な対応・環境調整が、幸せな人生への第一歩です。
感覚過敏によって何かしらの生きづらさを感じているのであれば、頑張って治そうとするのではなく、自分の気質や特性を受け入れ、その特性とうまく付き合っていく方法を考えたり、生きやすさを増やしていくことが何より大切なのではないでしょうか。
── どんな気質や才能も、きちんと理解され活かされる社会でありますように。