2013年にアメリカ精神医学会が発表したDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル 第5版)以降、「アスペルガー症候群」は「自閉スペクトラム症(ASD)」の一部として統合されました。
そのため、「アスペルガー症候群」というのはそもそも現在は診断名としては使われていないのですが、今もなお便宜的に「アスペルガー」という言葉を耳にすることがあります。現在では「ASDのうち、知的障害や言語の遅れがないタイプ」として使われることが多いようです。
アスペルガー症候群の人は、優れた言語能力、平均から平均以上の知能、特定の話題への強い関心を示す傾向があります。しかしながら、社会的なコミュニケーションや対人関係に困難をきたし、興味や行動の偏りを示すこともあります。
アスペルガーは発達障害の一種ですが、天才的だとか、頭がいいと言われることがあります。なぜそのように言われることがあるのでしょう。
アスペルガーの主な特徴
まずアスペルガー症候群の特徴です。必ずしも全ての項目がみんなに当てはまるわけではありませんが、以下のような特徴があるとされています。
社会性の難しさ
- 空気を読むのが苦手
- 相手の気持ちや表情を読み取るのが難しい
- 暗黙のルールが理解しづらい
コミュニケーションの特徴
- 一方的に話し続ける
- 冗談や比喩を文字通りに受け取ってしまう
- 声のトーンや抑揚が独特
興味・行動の偏り
- 特定の物事に強いこだわりや興味
- 同じ行動やルーティンを繰り返すのを好む
- 急な予定変更に強いストレスを感じやすい
知的発達や言語発達
- 知的障害や言語の遅れは見られない(またはごく軽度)
- むしろ知識が豊富で、一部の分野で非常に優れていることもある
- 「カメラアイ」と呼ばれる瞬間記憶能力を持つことがあったり、長期記憶が得意なことがある。
アスペルガー症候群はセルフチェックができる?
もっと詳しく知りたい方は、「自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient, AQ)」という、自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)の特性を測るための自己評価式のスクリーニングテストがあります。
自閉症スペクトラム指数(AQ)とは?
- 開発者:英国ケンブリッジ大学のサイモン・バロン=コーエンらによって2001年に開発
- 目的:成人がどの程度自閉症スペクトラムの特性を持っているかを簡便に把握するためのスクリーニングツール。
- 構成:全50項目
- 回答形式:4段階(「まったくそう思わない」~「非常にそう思う」など)
日本語版AQについて
- 翻訳・適応:日本語版は千葉大学の若林昭雄教授によって翻訳され、信頼性と妥当性も検証されており広く使われています。
- 対象:通常は 16歳以上の成人向け。子どもや青少年向けのバージョン(AQ-Child、AQ-Adolescent)もあります。
以下の5つの項目があります。
- 社会的スキル(Social skill)
- 注意の切り替え(Attention switching)
- 細部への注意(Attention to detail)
- コミュニケーション(Communication)
- 想像力(Imagination)
AQスコアの目安(成人向け)
| スコア範囲 | 解釈の目安 |
|---|---|
| 0~25点 | 特にASD傾向は見られにくい |
| 26~31点 | 傾向があるかもしれない |
| 32点以上 | ASDの可能性がある |
スコアが高い=必ずASDというわけではなく、正式な診断は専門家による総合的な評価が必要です。あくまでも傾向や特性を知るためのものとなります。
セルフチェックに関しては、検索するといくつかサイトが出てきますが、正式なフォーマットや診断については、精神科や臨床心理士など専門機関に相談することが望ましいでしょう。
高機能自閉症とアスペルガーの違い
混同されがちな言葉として「高機能自閉症」という言葉があります。「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」の違いについては、診断基準や背景が少し異なります。
① 言語発達の違い
- アスペルガー症候群:幼児期に言葉の発達に大きな遅れがない
- 高機能自閉症:言葉の発達に遅れがあるけど、知的能力は平均(例えば3歳過ぎてから話し始める)
② 診断の時代背景
- 昔は診断基準がわかれていた(DSM-IV時代など)
- 現在(DSM-5以降)ではすべて「自閉スペクトラム症(ASD)」に統一されており、「アスペルガー」「高機能自閉症」といった区分はあまり使われない。
現在の診断基準(DSM-5やICD-11)では、
- 「アスペルガー」「高機能自閉症」→「ASD(自閉スペクトラム症)」の中の個人差 と捉えます。
要するに、「どっちか?」よりも「この人の特性はどうか?何が得意で、何が困難か?」ということの方が重視されます。
アスペルガー症候群であると公表している有名人
実業家にも、アスペルガー症候群(ASD)またはその傾向があると公表している、あるいは専門家や周囲からそう推測されている人物が複数います。以下にいくつか代表的な人物を紹介します。
イーロン・マスク(Tesla・SpaceX 創業者)
- 本人が公式にアスペルガー症候群であると公表
- アメリカのテレビ番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』出演時に発言。
- 強烈な集中力・変革への意欲・社会性に課題がある一面も見られますが、それが革新的なアイデアに結びついています。
- 「私は人間の感情の読み取りがうまくない」と発言したことも。
アスペルガー的傾向があると推測されている人物(未公表)
ビル・ゲイツ(Microsoft 創業者)
- 本人は公表していませんが、一部の専門家が「アスペルガー傾向がある」と推測。
- 単調な行動やルーチンを好む、非社交的、独自のコミュニケーションスタイルなどがその根拠とされています。
スティーブ・ジョブズ(Apple 創業者)
- こちらも正式な診断・公表はされていませんが、強い完璧主義、こだわり、共感性の薄さ、感情表現の強さなど、ASDの一部の特徴に一致すると言われることがあります。
- ただし、彼はASDというよりもパーソナリティが独特な天才タイプとも考えられています。

「ザ・パターンシーカー」という本にも書かれていましたが、シリコンバレーで働く人の中には自閉症スペクトラムの人が多くいるということから、シリコンバレー症候群という別名が使われることがあります。
上記に挙げた実業家たちのように、アスペルガーと呼ばれる自閉症スペクトラムの一部の人はIQ、記憶力、集中力が高く、特定の分野と細部に強いこだわりを持ち、優れた観察力を持っている場合があります。
アスペルガー傾向があったとされる歴史上の偉人
アルベルト・アインシュタイン(物理学者)
- コミュニケーションに独特な癖があり、対人関係が苦手だったという逸話も。
- 同じ服を着続ける、ルーティンへの強いこだわり。
- 幼少期は言葉を話すのが遅かった。
レオナルド・ダ・ヴィンチ(芸術家・発明家)
- 極めて集中力が高く、興味がある分野にのめり込む傾向。
- 人付き合いは得意ではなく、感情表現が控えめだったとも。
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(作曲家)
- 社交性に難があり、日常のコミュニケーションが不器用。
- 強い感受性とこだわりが音楽に反映されていた。
アイザック・ニュートン(物理学者・数学者)
- 社交性が極めて低く、孤独を好んでいた。
- 科学への異常な集中力と探究心。
ニコラ・テスラ(発明家)
- 非常に強い記憶力と集中力。
- 常人には理解しがたい発想を持っていた。
- 社会的には孤立することも多かった。
アスペルガーのIQは
いくつかの文献を読む中で、アスペルガー症候群と知能(IQ)との関係はとても複雑であり、単純なものではないことがわかりました。
実際に、アスペルガー症候群の知能は、非常に幅広く、並外れた認知能力を持つ人もいれば、特定の領域で大きな課題を抱える人もいます。そのためここで、明言することは避けますが、ただ一つ言えることは、アスペルガー症候群は知的障害とは分類されないようです。
実際多くのアスペルガー症候群の人は、従来のIQテストで測定すると平均または平均以上の知能を示すそうです。
また、アスペルガー症候群の人は、しばしば以下のような認知能力を示す人がいます。
1. 優れた記憶力
2. 強力な分析力と問題解決能力
3. 興味のある分野に集中する能力
4. 創造的思考と独自の視点
これらの才能が、もしかしたらアスペルガーは頭がいいと思われている要因かもしれません。
アスペルガーはギフテッド2E?
「アスペルガー」と「ギフテッド」の特性は似ているため、誤診されたり、混同されることがよくありますが、そもそも「アスペルガー(ASD)」と「ギフテッド」自体が全く異なる概念のため、イコールではありません。
そのため、ギフテッドではない場合も、ギフテッドである場合もあります。
上記に挙げたように、アスペルガー症候群の人は、科学、技術、芸術などの分野で目覚ましい貢献を果たしてきた人が多くいます。アスペルガーという特性に加え、高い知能を持っている場合は、ギフテッド2Eの可能性はあります。
「ギフティッド その誤診と重複診断: 心理・医療・教育の現場から」のなかでも、アスペルガー症候群とギフテッドの両者の間には類似点があると書かれています。アスペルガー症候群は、明確に線引きができるわけではなくスペクトラム、グラデーションのある特性です。その特性が強まり、支障をきたすとアスペルガー症候群と診断されることになります。
ちなみに、ギフテッド2Eと認定されている息子は、当時通っていた病院の先生に、自閉症スペクトラム症候群や発達障害の診断名はついていないものの、ASD傾向のあるギフテッド2E型だと言われたことがあります。まさにアスペルガー傾向が当てはまりますが、凸凹の凸の部分(長けている部分)でカバーしてしまうので、発達障害の診断名はつかないと言われています。また、息子は記憶力が良かったり、「カメラアイ」という瞬間記憶能力もありますが、これらの特徴は、アスペルガーの特徴とも、ギフテッドの特徴とも重なります。
結論としては、「アスペルガー=ギフテッド2Eではないけれど、なり得る」といえるのではないでしょうか。
アスペルガーとギフテッド、ギフテッド2Eに関しては、本に詳しく記載されています。
著書の中で、違いについていくつか書かれているのですが一部ご紹介します。
アスペルガー症候群とギフテッドを識別する上で鍵となるのは、問題行動がいくつかの状況のみでみられるのか、それとも、もっと広くほぼどのような場合にでもみられるのかという点である。
中略
ギフテッド児は 会話も双方向的で適切な形を取り、共感性や抽象的思考力の高さを見せる。
問題行動がいかなる場面でもみられるかどうかが判断基準として挙げられる点は、ADHDとギフテッドの見分け方と同じであると記載がありました。
まとめ
このように、社会的に影響を及ぼした有名人や偉人などが発達障害を併せ持っていたとされていたり、自身が公表していることからアスペルガーは天才だとか頭がいいとかいわれるケースが多いのではないでしょうか。
アスペルガー症候群と知能の関係は、知能検査では測れない知能(芸術や音楽など)もあるため、IQだけではすべてを語れません。
アスペルガーなのかギフテッドであるのかということが問題なのではなく、大切なことは特性を理解し、支援し、能力を活かしていくことにあります。
様々な誤解が解け、多様性が受け入れられ、能力が活かされる社会をつくっていくことが大切ではないでしょうか。
参考文献
「Autism IQ Distribution: Exploring Cognitive Diversity in ASD」
「Asperger’s Syndrome and IQ: Exploring the Complex Relationship Between Intelligence and Autism」
「Which Is It? Asperger’s Syndrome or Giftedness? Defining the Differences」
「アスペルガーの偉人たち」 著 イアンジェイムズ
「ギフティッド その誤診と重複診断: 心理・医療・教育の現場から」

